休日の午後、買い足した同じ形の白い箱に、お子様が幼い頃に着ていた服や、ご家族で出かけた日の小さな記念品をそっと折りたたんで仕舞う。
その手つきの優しさは、間違いなくご家族の歴史への深い愛情の証です。
ですが、その美しい箱が壁際へ積み上がるたび、今日、お子様が両手を広げて回れるはずだった空間が、ほんの数センチずつ静かに消えていることに、お気づきでしょうか。
隙間を綺麗に埋める、あなたの真面目さ
箱の大きさを揃えるという、家族への深い思いやり
週末のたびにクローゼットの扉を開け、メジャーをあてては、そこにぴったりと収まるプラスチックの容器をホームセンターで探し歩く。
ご家族の成長の証や、かつてのあたたかな記憶を、ホコリや傷から守るためのその行動は、本当に尊いものです。
思い出の品々を形や種類ごとに分け、崩れないように並べ直す作業には、ご家族を大切に想うあなたの真面目さがそのまま表れています。
収納術を学ぶほどに増えていく、「まだ置ける」という安心感
しかし、本や雑誌で新しい片付けの工夫を学び、空間をパズルのように上手く使えるようになることには、ひとつの落とし穴があります。
それは、「ここにもう一つ箱を置ける」という錯覚です。
大切な品をひとつも傷つけないために、新しいプラスチックケースを休日に買い足し、今の家族の通り道をまた数センチ細くする丁寧な作業。
その見事な工夫によって、お部屋の壁は少しずつ厚みを増し、窓からの風の通り道を塞ぎ始めています。
収納上手になるほど、部屋が狭くなる理由
綺麗に整頓されているのに、なぜか息苦しい空間
ご家族が毎日を心地よく、深呼吸をして暮らすための空間の広さには、実は明確な物理的限界がございます。
お家の広さに対して、モノの居場所を10パーセントから、どんなに多くても15パーセント程度に抑えること。
その割合を超えてしまえば、どれほど美しく箱を重ねても、ご家族が手足を伸ばすための余白は失われてしまうのです。
どれほど綺麗に箱の角を揃えて積んでいても、その割合を超えてモノが増え続ければ、空間は物理的な限界を迎えます。
いつか来るかもしれない振り返る日のために、今すぐ家族で寝転がれるはずだったリビングのカーペットの半分を、段ボールの居場所として優しく明け渡している状態。
それが、整頓されているのにどこか息苦しさを感じる理由なのです。
論拠The Clutter Culture(モノと家族の相関研究) | 米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)日常家庭生活研究センター
大切なものを守るために、今の家族が譲り渡しているもの
ご家族が廊下で肩をすぼめることなく、ゆったりと笑顔ですれ違うためには、およそ110センチメートルという幅がどうしても必要になります。
大切なお洋服が虫食いで傷まないよう、季節が変わるたびに新しい防虫剤を買いに行き、ご自身の休むべき時間を少しずつ箱の入れ替えに使ってあげる優しさ…。
その素晴らしい愛情の積み重ねが、結果としてご家族がすれ違う幅を90センチ、80センチと削り取っていきます。
大切なものを守りたいという思いから、ご家族が動くたびにハラハラして見守り、あなたがソファでゆっくり温かいお茶を飲む時間を手放している状態が、そこにはあります。
過去の箱を積み上げ続けるか、今の家族に余白を贈るか
今まで丁寧に箱へしまってきた思い出たちに区切りをつけ、今日ご家族が買ってきた新しい靴を並べるための、玄関の広さを確保すること。私はかつて、その選択ができずに、家の中を美しい箱で埋め尽くして疲弊していました。
だからこそ、手元にすべてを置いて管理する無給の管理人をお休みし、大切な品々を温度や湿度が保たれた外部の専用の場所へお引越しさせるという、新しい仕組みを取り入れました。
過去の記憶をそれに一番ふさわしい環境へ委ねたことで、我が家の床からは箱が消え、子どもたちが気兼ねなくおもちゃを広げて笑い合う、何もない広い空間が戻ってきました。
ご自身の時間と体力を削りながら、これからもご自宅の中でパズルを組み続ける道を選ぶか。
それとも、過去の品をふさわしい場所へ預け、今目の前で笑い合うご家族が手足を伸ばせる、あたたかな余白を取り戻すか。
どちらの景色を選ぶのも、あなたの自由です。
